003 目的(事業目的)の決め方

会社は、定款で定められた事業目的の範囲内でのみ、事業を行うことができます(民法第34条、会社法第3条)。事業目的は登記簿の記載事項でもあります。

事業目的に記載されていない事業は営むことができない、というのが建前です。

しかし、ある会社が事業目的の範囲を逸脱する取引をした後で、その会社の代表取締役が「あれは目的の範囲外の行為だから無効ね」などと取引の無効を主張したならば、取引相手にとってはとんでもない話です。
そのような無効主張が認めれるとしたら、取引のたびに取引相手の登記簿をチェックしなければならなくなってしまいます。

そこで、判例上は、定款に記載された事業目的そのものだけではなく、その事業目的を達成するために必要または有効な行為まで広く含むと、かなりユルやかに解釈しています。

実務的には、事業目的の末尾に「上記各号に付帯する一切の事業」などと記載することで、幅広く取引活動をカバーしています。

とはいえ、事業目的が記載されている登記簿は、金融機関や取引先に提出して内容をチェックされることがあります。
定款・登記簿に記載されている事業目的とまったく関連性のない事業を反復・継続して営んでいると、その事業のために費やした経費が税務署に認めてもらえないなどのリスクもあります。
やはり事業が反復・継続的ならば、定款の事業目的に記載して登記するべきでしょう。

定款への記載の仕方は、主な例をあげると、
「日用品雑貨の製造販売」
「不動産の売買、賃貸およびその仲介」
「飲食店の経営」
「経営コンサルタント業」・・・・・このような感じで記載することが多いです。

電器屋を経営している会社が洋服屋もやりたいと思ったら、たとえば「洋服の販売」のように定款の事業目的を変更・追加するために所定の手続きを取り、さらに登記を申請して登記簿の記載も変更していきます。

 

(1)会社設立時には、将来予定している事業目的を盛り込む

「今すぐには始めないけれども、将来やるかもしれない」事業については、会社設立の時に定款に載せておけば、後で事業目的を追加する手続きをしないで済みます。

その場合に、許認可を必要とする事業であっても、あらかじめ定款に記載しておくことができます。ただし、どのように記載すれば良いか、事前に所轄官庁に問い合わせておくことが大切です。

 

(2)許認可が必要な事業とは

それでは、許認可を必要とする事業には、どのようなものがあるのでしょうか。

許認可を必要とする事業は1000種類以上あると言われており、すべてを網羅することはできませんが、たとえば次のような事業を行う場合には、所轄官庁に対して許認可を取得し、その監督を受けなければなりません。これは一定以上の技術水準や衛生管理水準を必要とする等の理由からです。
許認可を受けずに事業を行うと、営業停止などの処分や罰則が課されることになりますので十分にご注意ください。
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なお、業種によっては、一定以上の資本金を要求される点についても注意が必要です(特定建設業など)。

 

 

(3)事業目的を多くしすぎない

事業目的をあまりに多く記載するのも考えものです。「いったいこの会社は何をしている会社なのか?」ということが不明確になりすぎると、許認可審査や金融機関の融資審査を受ける際に大きなマイナスですし、また新しく取引をはじめる取引先からも不審に思われるかもしれません。
ほどほどにしておきましょう。

 

(4)その他、事業目的に記載できないもの

事業目的は登記簿に記載され公にされるものですから、一定の制限があり、次の要件を満たさないと登記できません。

登記できない事業目的

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

以前はこの他に「具体性」という要件もあり、目的を決めるのが煩雑でしたが、会社法施行後はこの要件がなくなりました(そのため、極端な話「商業」という事業目的でも受理されます)。
けれども、取引相手や金融機関、許認可を受ける際などにマイナスの印象を与えないよう、ある程度具体的な事業目的を定めることも大切です。

 

作成:埼玉県八潮市三郷市の司法書士法人ひびき

 

002 本店(会社の住所)の決め方

会社の住所のことを「本店」といいます。
この「本店」は、定款で定め、また登記簿に記載しなければなりません。

本店を置く場所については、日本国内であればどこでもOKです。
自宅を本店にすることも、すでに別の会社があるところに本店をおくことも可能です。

ここで気をつけなければならないことは、
(1)法人住民税の均等割と、
(2)近いうちに自宅・事務所・店舗を移転する予定があるかどうか

です。

 

(1)法人住民税の均等割の問題

会社等の法人を設立すると「法人住民税」がかかります。この法人住民税のうち「均等割」の部分については、たとえ赤字でも払わなければいけません。

ここでポイントは、『 複数の市区町村に事務所等(寮・保養所・集会所なども含みます)があると、市区町村の数だけ法人住民税の均等割が課税される』というところです。
本店はA市に置くけれども店舗はB区に出す、ということをやればA市とB区両方で法人住民税の均等割を納める必要がでてきます。

そのため、事務所・店舗とは別の市区町村に本店をおく場合は、それだけのメリットがあるかどうかをよく検討しましょう。

なお、「本店は登記簿の上だけで、人員も配置しないし事業活動もしません」という場合は、届出(都道府県と市区町村に)をすれば本店所在地では均等割は課税されません。しかし、自宅(本店)の奥様に経理や電話番をさせて給料を支払えば、当然、均等割がかかります。

 

 

(2)近いうちに自宅・事務所・店舗を移転する予定があるかどうか

本店を移転すると「本店移転」の登記が必要となります。これは、登録免許税だけで3万円(法務局の管轄が変わる場合は倍の6万円)かかり、その他に司法書士報酬もかかります。さらに銀行預金など様々なところで変更手続きが必要となりますので、近い将来に本店を移転する予定がある場合には、安易に本店を決めてしまうと後悔することになります。

ところで、新築の店舗を借りて本店にしたくても、会社名義で賃貸借契約をするには、会社を設立してからでないと取得できない登記事項証明書(登記簿謄本)や会社の印鑑証明書が必要ですから、新店舗を本店にできないのではないか?と疑問を持たれるかもしれません。
この場合には、「会社設立後は会社を借主とする特約」がついた(仮)契約を、個人名義で行っておいて、会社設立後に本契約をすれば大丈夫です。

 

 

(3)定款への本店所在地の記載方法

定款では「最小行政区画」まで決めておき、登記簿のほうだけ「所在地」まで記載することも可能です。こうしておけば、同一市内で本店を移転した場合でも、定款を変更しないで登記だけを変更すれば済み、便利です。
定款への本店所在地の記載方法

 

 

 

 

 

 

 

 

※定款に本店を簡略化せずに記載すると、同一市町村内で本店を移転した場合にも定款変更が必要になり、面倒です。

作成:埼玉県八潮市三郷市の司法書士法人ひびき

 

 

001 商号(会社名)の決め方

「商号」とは、設立する会社の名前のことです。
これには次のようなルールがあります。

 

(1)商号には、「会社の種類」を入れなければいけない

会社の種類とは、「株式会社」「合同会社」「合資会社」「合名会社」の4種類のことをさします(今は「有限会社」を新たに設立することはできません)。
この、種類をあらわす文字を入れる場所は、会社の名前の前でも後でも、どちらでもかまいません。
      例 田中園芸株式会社 株式会社田中園芸 どちらでもOK。

ただし、これら「会社の種類」をあらわす用語として、外国語表記は登記できません。
たとえば、「Company Limited」「Incorporatad」「Corporation」、またはこれらの短縮形は登記できません。
このような表記を特に公式に用いたい場合には、定款で「当会社は、株式会社田中園芸と称し、英文では、TANAKA Gardening Shop Co.,Ltdと称する」のように併記し、登記上は「株式会社田中園芸」だけとする方法があります。

なお、名前の中に種類を入れなければならないのは、会社以外の「一般社団法人」や「有限責任事業組合」などでも同じです。

 

(2)登記簿では、商号に使える文字は限定されている

会社がどのような商号を用いるかは、上記(1)の「種類」さえ入れれば、後は自由となっています。
しかし、登記をする際には、使える文字が次のとおりに限定されています。

商号で使える文字一覧

よって、日本語の句読点は登記では使えませんので、「丸三工業。」は不可です。
「○三工業」もいけませんね。
また、例えばハングル文字などを登記簿にのせることもできません。

 

(3)近所の会社と勘違いされそうな商号はつけない

以前は、「同一の市区町村内で、同一事業のために他人が登記したものと判別できない商号は登記できない」という「類似商号規制」というものがあり、会社名を決めるのも大変でしたが、今ではこの類似商号規制は廃止されました。

したがって、今では、本店(会社の住所)が同一でない限り、同一市区町村内に同じ商号の会社が並存することができるようになりました。これは会社設立の際に商号を決めるにはありがたいことですが、裏を返せば、隣近所にまったく同じ名前の会社ができる可能性もあるということになります。

これでは、先行して営業している会社はたまったものではありません。

そこで、会社法第8条では、「不正の目的をもって、他の会社であると誤認されるおそれのある名称又は商号を使用してはならない」と定め、そのような不正使用を差し止めることができる規定をおくとともに、罰則規定を設けています(第978条第3項)。

つまり、会社法は、「登記するのは自由だけれど、訴えられるかもよ」と言っているわけです。

ですので、少なくとも近所に似たような名前の会社がないかどうか、事前に確認する作業は、やはり今後も必要と考えておくべきでしょう。

(4)不正競争防止法や商標登録に注意

また、「不正競争防止法」という法律によって、
1.他人の商品等表示(商号やブランド、商品名などの商標)として幅広く認識されているものを利用する行為とか、
2.他人の著名性にタダ乗りする行為
このような行為は禁止されています。
つまり、「エル○ス」とか「ミッ○ーマウス」など世に知られた名称を、商号に利用したり商品名やサービス名に利用したりすることは禁止されており、これに違反すると損害賠償や使用差し止めの対象になりかねません。十分注意してください。

 

作成:埼玉県八潮市三郷市の司法書士法人ひびき