009 役員(2) 株式の譲渡を制限するかどうかで、必要な役員・機関は変わる

取締役会や監査役を置くケースは少なくなった

さて、008で、会社に置くことのできる『役員』『機関』には、どのようなものがあるのかをご紹介しました。
そして、最低限「株主総会+取締役1名以上」で会社が作れる、ということも説明しました。

平成18年の会社法施行以来、株式会社を設立する際には、このような『最小構成』で設立するケースが大半を占めています。「取締役会」とか「監査役」などを置くケースは、今では少ないです。

ほとんどの会社が「株主=経営者」なので、株主総会とは別にわざわざ取締役会を設ける実益は少ないですし、監査役を置く意味もあまりないからでしょう。株主が経営に直接関与しないような場合や、親会社が子会社を設立するような場合には、あえて取締役会や監査役を置くこともありますが、全体から見れば少数です。

(ちなみに、以前は、株式会社では「株主総会」「取締役3名以上」「取締役会」「監査役1名以上」が必須とされていました)

 

「取締役会」や「監査役」を“置かなければいけない”場合とは

このように「取締役会」や「監査役」を置かなくても良いことにするためには、実はある条件があります。

その条件とは、株式に譲渡制限という決まりがついている、ということです。逆に言えば、株式に譲渡制限という決まりがついていない場合には、「取締役会」と「監査役」を“置かなければいけない”ことになっています。

株式の譲渡制限とは、たとえば「当会社の株式を譲渡するには、株主総会の承認を要する」というような規定を、定款に記載します。 譲渡制限の内容は登記簿にも記載する必要があります(株券を発行したら、株券にも記載)。

 

では、どうして、『株式の譲渡制限』があるかどうかによって、会社の役員構成や設置機関が変わるのでしょうか?

 

本来、株式会社の株式は、他人に自由に売却して、投資した資金を回収することができるものです。たとえば、上場しているような大会社では、株式市場で自由に株式を売買できるようになっていますね。

しかし、日本の株式会社の99%を占める中小会社で、株主が自由にその株式を売買できるとしたら、ちょっと困ったことになります。

株式を持つということは、ある会社に対して様々な権利を持つ(カネも出すけど口も出す)ということで、一定数の株式を保有すれば実質的にその会社を支配することすら可能になるという、強力なものです。中小会社では株主数が10名以下であることが多いですから、その会社の株式を自由に他人に譲渡できるとなれば、「目が覚めたら会社が人手に渡っていた」というように、経営者や他の株主に多大な影響を及ぼしかねません。

そこで、会社が知らないうちに株主が変わらないように、株式の譲渡にシバリをかける制度があります。それが『株式の譲渡制限』なのです(この制度自体は50年くらい前からありました)。

なお、譲渡制限規定の内容は、株式の譲渡について誰か(株主総会、代表取締役等)の承認を要するというものに限られ、株式の譲渡を「禁止」するような定めを設けることはできないことになっています。

 

平成18年に施行された会社法を作った人たちは、この『株式の譲渡制限』に着目しました。
と言うのも、それまでは株主が数千人いるような超大会社でも、株主が一人しかいない町の小会社でも、同じ「株式会社」である以上、法律上は大きな違いを出すことができず、さまざまな点で実態と法律とが合わなくなってきていたのです。

「株式譲渡にシバリのある会社は、ほとんど中小企業に違いない。」
「株式を自由に譲渡して良い会社は、そこそこ大きな会社かこれから大きくなる予定の会社に違いない。」
「だったら、同じ株式会社でも、譲渡制限があるかないかで会社の仕組みをガラリと変えてしまってもいいんじゃないか?」
・・・と、このように考えたのですね、たぶん。

こうして、『株式の譲渡制限』がある会社は取締役会や監査役を置かなくても良いことになりました。反対に『株式の譲渡制限』がない会社は、昔のままに取締役会や監査役を置くことが義務付けられています。

 

『公開会社』と『非公開会社』の違い

専門用語なので覚える必要はまったくありませんが、平成18年の会社法施行後は、株式の譲渡制限規定の有無によって会社のタイプが異なるようになったため、一応、それぞれに名前が付いています。

  • 定款上、全ての株式に譲渡制限がついている会社は、非公開会社
  • それ以外の会社は、公開会社

現在のジャスダック証券市場に上場している株式のことを、昔は「店頭公開株」と呼んでいましたが、それとは何の関係もありません。単に、株式の譲渡制限規定が定款にあるかないかによる区別です。

そして、株式の譲渡制限規定の有無によるこの区別方法は、法律を作る側にとって非常に便利な区分であったため、これ以外にもさまざまな点で差を設けられています。
「今は小さくても将来は会社規模を大きくしたい」というような場合には、少なくとも下記の違いはご理解ください。
公開会社と非公開会社の違い

 

このように、非公開会社のほうが、公開会社よりもずっと自由度が高い内容になっています。
一般的な株式会社設立の場合は、株式に譲渡制限をつけて非公開会社としますので、この点であまり悩む必要はありません。

「株式の譲渡制限」は、非常に奥深い世界なのですが、会社設立時はこの程度の理解で十分です。

 

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008 役員(1) 株式会社の『機関』『役員』とは

株式会社の役員は、現在は1名でもよくなりました。この場合はあまり悩むことはありません(でもここで、「本当に1人でいいのか?」という問題があります。この点は後で触れます)。
しかし、役員を何人か置くならば、誰をどのような役員にするのか、どのような機関を置くのかを考えなければなりません。

役員というのは、『代表取締役』『取締役』『監査役』などのことです。
機関と言うのは、『株主総会』『取締役会』などのことです。

複数の役員を置く場合には、株主構成や税金対策、はたまた事業承継対策などを考慮して、どのような機関や役員を設けるべきなのか、またその場合に注意すべき点は何なのかをよく検証してみるべきです。ここは、後悔しないように会社設立時にじっくり考えておくべき事柄です。

まず、株式会社の役員や機関にはどのようなものがあるか、という点から見ていきましょう。

株主総会

 

取締役1取締役2取締役会代表取締役監査役1監査役2
会計参与

 

上記のうち株式会社で最低限必要なのは、最高意思決定機関としての株主総会と業務執行を担当する取締役1名だけですから、これで株式会社を設立することは可能です。

 

とはいえ、すべての株式会社が『株主総会+取締役1名』で間に合うわけではありません。取締役会を置くべきケース、監査役を設置したほうがよいケースもあります。今後そのあたりを記事にしたいと思います。

 

作成:八潮・三郷の司法書士法人ひびき

007 役員の任期を何年にするか

一般的な中小株式会社では、役員の任期は最長10年

ここでは、役員の任期に限って話を進めます。

『株式会社』の場合、役員には任期があり、定期的に改選してその都度登記をしなければなりません。
ちなみに、株式会社以外の会社形態では、役員に任期はありません。

株式会社の役員任期は、一般的な「1期=1年」の会社では、原則は下図のとおりです。
株式会社の役員任期

 

このように覚えていただければ、ほぼ間違いありません。
(法律上の言い回しがわかりにくいので、言い換えてあります。法律上正しい表現は、『選任後・・年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時まで』となっています。)

ただし、重要な例外があります。

会社が発行する全部の株式に『譲渡制限(これが何かということは別の機会に)』がある場合、定款に定めをおくことによって取締役も監査役も任期を『10期め終了直後の決算総会終了時』まで伸ばすことができる、という例外です。

中小企業の定款には、通常はこの『株式譲渡制限の定め』があり登記もされていますから、ほとんどの会社がこちらの例外を採用して、役員の任期を延ばしました。
これが、「会社法が施行されて役員の任期が10年になった」と言われているものです。

役員の任期は10年でいいのか?

多くの会社が定款変更をし、新設株式会社の役員任期については最長の『10年』と定めるケースが多くなりました。
以前は2年ごとに役員変更登記(全員再選でも必要)の登記をしなければならなかったものが最大で10年やらなくて済むということで、費用も手間も節減できるためです。

ただ、10年という期間が役員の任期として妥当かどうかということは、会社の株主構成や役員の構成員によって判断したほうが良い場合があります。

役員の任期というのは、例えれば野球選手などの複数年契約に似ています。
野球選手の場合は雇用契約なので年俸を勝手に下げることができず、会社役員の場合は委任契約なので報酬を上下できるという違いはありますが、何が似ているかといえば、正当な理由がない限り辞めさせる場合には違約金が発生する、という点です。
違約金は通常、任期の残りの期間分の役員報酬が、算定基準となります。
役員任期を10年にするということは、10年間役員として迎えることを約束するのと同じことなのです。特に問題を起こしたわけでもないのに何らかの事情で解任するようなことになれば、任期の残り期間については会社は役員報酬相当額を違約金として支払わなければなりません。

さて、10年という期間は、かなり長いです。経営には「おカネ」の話がついてまわりますので、家族・親族であっても将来の関係がどうなるかは誰にもわかりません。他人であればなおのことです。
そのため、役員が一人とか家族ならばともかく、知人友人などに役員への就任を依頼する場合には、親しい仲であるからこそ、役員任期は長くても5年程度に収めておくべきではないかと私たちは考えています。

なお、任期を長くすると、いざ任期が満了した時には忘れてしまっている危険性があります。
任期の到来を忘れたままにしておくと、「過料」という反則金がかかります
また、何も登記をしないまま12年以上放置すると、実質的に活動していないとみなされて強制的に解散させられる可能性もあります。
でも、ご安心ください。
司法書士法人ひびきをご利用いただいているお客様には、必ず次回の任期到来時に、私たちからご連絡させていただきますので!

作成:八潮三郷の司法書士法人ひびき

006 決算日(決算期・事業年度)を決める

(1)会社・法人では、決算日を自由に決めることができる

個人事業の場合、事業年度(会計期間)は毎年1月1日に始まり12月31日に終わります。必ず12月31日を決算日として翌年の2月中旬から3月中旬に確定申告を行わなければならず、これを自由に変更することはできません。

しかし、会社設立をした場合には、決算日(決算期)を自由に決めることができます。
たとえば、事業年度を「毎年6月1日から翌年5月31日まで」とし、決算日である5月31日から2ヶ月以内(つまり7月末日まで)に申告すればいいのです。
そのため、繁忙期を避けて決算日を決めることができ、会計処理の上で非常に便利です。

ちなみに、決算日は月の末日でなくてもかまいません。
また、事業年度は1年以内と決められているため、決算日をたとえば「2年おき」にすることはできませんが、逆に年2回以上の決算日を定めることは可能です。

一度決めた決算日を変更することも可能で、決算日変更を利用した節税テクニックもありますが、決算日を変更するとどうしても1年に満たない事業年度が生じることになり業績の変化が見えにくくなります。これは経営的視点からは望ましくありません。

なお、決算日(事業年度)は必ずしも定款に記載する必要はありませんが、税務署に対して自社の決算日を明らかにするため、通常は定款に記載します。

 (2)消費税の免除期間は決算日/事業年度で決まる

資本金が1,000万円以上の会社は、無条件に消費税の納税義務があります。
いっぽう、資本金が1,000万円未満の会社では、2期前(前々年度)の課税売上高が1,000万円を超えると消費税を納税する義務があります。

新しく会社を設立した場合には、前年度も前々年度もありませんので、設立当初2期目までは消費税の納税義務がありませんでした(過去形)。
会社設立前に個人事業主としてどれだけ売上をあげていても個人事業と設立会社は関係がなく、会社を設立した場合には自動的に2期目まで消費税を免税されていたので、会社設立の大きなメリットのひとつだったのです。

この点については批判が強かったために消費税法の改正が行われ(消費税法9条の2)、消費税の事業者免税点について、もうひとつ条件が増えました。
それは、「前事業年度開始の日から6ヶ月間の課税売上高等が1,000万円を超えた場合には、当年度は消費税の課税事業者となる」というものです。

整理すると、
(A)
資本金が1,000万円未満の会社は、設立第1期は消費税を納める必要がなく、消費税をまるまる会社の利益にすることができます。
(B)
また、設立後第2期については、特定期間(原則的には前期(第1期)上半期)の課税売上高または給与等支払額の合計のいずれかが1,000万円以下であれば、やはり消費税の納税義務が免除されます。
(第1期上半期の課税売上高が1,000万円を超えていても、第1期上半期の給与等支払額が1,000万円を超えていなければ、免税事業者と判定されます。)

このように、売上高が大きい事業者では、2期目の消費税が免除されない可能性が高くなってしましましたが、それでも法人成りのような場合によっては最低でも第1期は消費税を免除されるのですから、やはり大きなメリットです。

ここで気をつけなければならないことは、決算日(事業年度)の定め方によって、消費税を免除される期間が大幅に違ってくるというところです。

たとえば、8月31日が決算日の会社を8月1日に設立(登記)すると、設立第1期は1ヶ月しかありません。これでは、次の第2期も消費税の納税義務がない場合であっても13ヶ月しか消費税の免除を受けられません。しかも1ヶ月しか営業していないのに、決算日を迎えた以上、税務申告しなければなりません。

ところが、同じ会社を9月1日に設立(登記)すれば、1期めの決算期である1年後の8月31日まで丸々12ヶ月は確実に、消費税が免除されます。
第2期も消費税の納税義務がない場合には、なんと24ヶ月も消費税の納税義務がないのです。

会社設立の際には、他の条件が許す限り、消費税の免除特典を活かすように決算期を設定したいものです。

 

005 会社設立時の出資者と出資方法を決める

(1)会社で一番エラいのは?

会社を設立するには、まず『発起人』が定款をつくることが必要です。
裏返して言えば、定款をつくる人のことを『発起人』といいます。
現在は『発起人』は1人でもかまいません。また、同種の事業目的があれば、会社もまた他の会社の発起人となることができます。

株式会社の場合、定款を作るだけでは会社は設立できません。
誰かが出資をして、会社の基本財産を用意しなければならないのです。

発起人だけが出資をする方法を『発起設立』といいます。
これに対して、発起人のほかに出資者を募る方法があり、これを『募集設立』といいますが、手続きが複雑で今ではあまりメリットもないので、ここでは省略して『発起設立』に限って説明します。

会社は、出資者が会社に対して出資をし、その見返りとして会社が出資者に配当(利益還元)をする、というのがタテマエになっています。
この出資者のことを株式会社の場合『株主』といいます。発起人は出資者ですから、会社設立後はそのまま『株主』になるわけです。

発起設立とは募集設立

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

法律上、会社の中で一番エライのは、社長でも会長でもなく、「株主様」ということになっています。
たとえば、会社の役員は株主総会で選びますし、解任もできるという具合です。

カネも出すけど口も出す、という存在が「株主様」なのです。

しかも、会社の世界では、持っている株式の数で会社に対する発言権が決まるのです。
上の『発起設立』の図で、発起人Bは発起人Aより倍の金額を出資していますから、所有株数もAの倍となり、会社に対する発言権も倍あると考えて良いのです。しかもBは全体の50%(資本金総額200万のうち100万)を出資していますので、たとえAが代表取締役社長であったとしてもこの会社を実質的に支配しているのはBということになります。

ですから、会社経営に口を出してほしくない人には出資ではなく借入金として事業資金を出してもらうほうが安全です(完全無議決権株式というものもありますが、複雑です)。ただし、借入れにする場合は、税務署から贈与と判定されないように注意が必要です(特に身内から借り入れる場合)。

 

(2)ワンマン路線か、チームワーク重視か

このように出資者(株主)を誰にするかは、後々の経営に重大な影響を及ぼしますし、またある意味では会社のカラーを決定づける大きな要素にもなります。

たとえば、個人事業主であるあなたが資本金300万円の会社を設立して法人成りするとします。
この場合、
A)あなたが300万円全部出資する
B)あなたと従業員2人、計3人が100万円ずつ出資する
どちらを取るかで会社のカラーはまったく違ってくるはずです。

A)の場合、会社に対する発言権はあなたにしかありませんから、あなたの強力なリーダーシップを発揮できることでしょう。一方、従業員のモチベーションは上がらないかもしれません。まさにワンマン経営です。

B)の場合、誰も株式数が過半数を超えていませんので、何を決めるのも多数決で決めていくことになります。けれども株主になれば、業績が上がれば配当を受け取る権利がありますので、積極的に仕事に励んでくれるかもしれません。こちらはチームワーク重視の経営スタイルです。
しかし、関係がこじれると、ちょっと厄介です。

会社の経営スタイルは色々ですので、正解はありません。どのような経営スタイルを目指すのかによって答えは違ったものになります。

 

(3)現物出資~出資財産は現金に限らない~

会社を設立するときの出資財産は、不動産や自動車・パソコンなどの動産、株式などの有価証券、貸付金や売掛金などの債権など、評価可能な財産であれば現金でなくてもかまいません。現金出資なしで、すべて現物出資により会社を設立することも可能です。
ただし、現物出資をする場合には、定款に記載しなければ効力を生じませんので、注意が必要です。
現物出資

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

現物出資する財産は、評価して金額に換算する必要があります。
そこで、本来は裁判所に「検査役」の選任を申し立てて、選任された検査役(公認会計士や弁護士)が財産評価を行うのですが、
1)ものすごく時間がかかる
2)ものすごく費用がかかる
ので、まったく非現実的です。

そこで、現物出資であっても検査役を選任しなくても良いものとされている法律上の例外があるので、通常はこちらを選択することになります。
検査役の調査が不要な現物出資

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つまり、500万円以下の現物出資であればご自由にどうぞ、ということです。
現物出資財産をどのように評価するかは、発起人に任されてしまいます。

ここで、もしも定款に記載した現物出資財産の評価額が現実の価格より低かったとしたら、どうなるでしょう?
たとえば、Aさんが現金で50万円、Bさんが50万円と評価した自動車を出資して、資本金100万円の会社を設立したが、実はBさんが出資した自動車が事故車で本当は10万円の価値しかなかったような場合です。設立時取締役にはAさん、BさんのほかにCさんがいるとします。
資本金に、40万円も穴があいてしまってますね。
このような場合、原則として、発起人と設立時取締役の全員が連帯して(つまりBさんだけでなく、AさんもCさんも連帯して)不足分40万円を穴埋めする責任を負います。

 

(4)名義変更は会社設立後に行う

不動産や自動車、株式(上場株式)などを現物出資した場合には、登記・登録などの名義変更をすることになります。しかし、会社設立登記が終わらないと会社の登記事項証明書(登記簿謄本)が取得できないため、それまでは現実的には名義変更の手続きができません。
これらの名義変更手続きは、会社設立後すみやかに行うことになります。

作成:八潮三郷の司法書士法人ひびき

 

004 資本金は、設立時には、いくらにするか

会社法が施行され、資本金は1円でもOKになりました。手続きを踏めば後から資本金を増やすことは可能ですが、そうするとコストがかかってしまいます。では、会社設立時には、資本金をいくらにすればいいのでしょうか?

資本金とは、平たくいえば、『事業資金の元手』です。
ときどき、「資本金とは手をつけてはいけないものだ」と思い込んでいる方がいますが、『元手』ですから、会社設立後は使ってしまって良いお金です。
この資本金を使って当面の事業資金、たとえば事務所や店舗の賃料、備品の購入、必要な設備投資などに充てていくことになります。

資本金をいくらにするかは、
(1)『元手』としての必要額
(2)社会的信用
(3)税務上の取り扱い
(4)許認可の必要条件

これらを基準にして決定し、会社を設立するのが理想的です。

(1)『元手』としての必要額から考える

A)法人成りの場合
個人事業を法人化する場合には、すでにある資産を設立後の会社に引き継ぐことができますし、売上げもある程度安定しているケースが多いですので、「元手」として考えた場合の資本金は、それほど必要ありません。
ちなみに、商品在庫や備品などは「現物出資」という形で資本金に組み込むこともできます。ただし、現物出資の場合は財産価値を算定しなければなりませんので、会社設立を急ぐ場合には向きません。

B)0から起業の場合
まったく0から起業する場合には、売上げがどの程度になるのか予測できませんし、備品購入や商品の仕入れなども考慮しなければなりませんので、
「元手」として考えただけでも厚めの資本金を用意しておく必要があります。 資本金が尽きてしまうと、開業早々に資金調達で頭を悩ませることになってしまいます。

(2)社会的信用の面から考える

資本金の大小は、会社に対して金融機関が事業資金融資を行うときの重要な判断材料になります。もちろん資本金の額の大小だけが判断材料になるわけではありませんが、あまりに資本金の額が少ないと信用が低く見られ、融資がおりても額が少ない、ということになりかねません(融資額の上限は、自己資金、つまり資本金であることが多い。2倍の場合もある)。

確かに資本金1円で会社を設立できるようになりましたが、これで事業を継続するためにはすぐに借り入れをしなければならず、即債務超過になってしまいます。これでは融資をする金融機関が二の足を踏むのは当然ですね。

また金融機関だけではなく取引先も、これから取引を始めようとするあなたの会社について調査するかも知れません。資本金があまりに少なければ、厳しい目で見られるおそれもありますので要注意です。

(3)税務上の取り扱いの面から考える

資本金の額が多ければ余裕を持って事業を始めることができます。
しかし、会社設立時に資本金を一定額以上にしてしまうと、税金をたくさん払うことになる可能性があります。
なぜかと言うと、中小企業には税金面でさまざまな優遇措置があるのですが、資本金額が一定額以上になるとこの優遇措置がなくなってしまうからです。

1)新設法人の消費税免税措置

新たに設立した会社については、登記簿上の資本金が1,000万円未満の会社は、設立後第1期は(場合によっては第2期も)、消費税の課税が免除されます。
登記簿上の資本金額を1,000万円以上にすると、消費税の免除はありませんので、初年度から消費税を納付しなければなりません。
資本金1,000万円ちょうどですと消費税の納税義務が出てきてしまうので、9,999,999円以下ならば大丈夫です。

なお、以前は、資本金1,000万円未満の会社の場合、会社設立後第2期目まで消費税が免除されていましたが、平成25年度税制改正により、『上半期の課税売上高(または給与)が1,000万円を超える事業者は翌期から消費税の課税事業者となる』とされ、第2期目については免除にならないケースが増えました。

2)法人住民税の均等割

会社・法人を設立すると、法人税を国に納めるだけではなく、都道府県や市町村にも地方税を支払う義務があります。
この中で、法人都道府県民税と法人市町村税には『均等割』という部分があります。
会社・法人が納める税額は利益に応じて課税されるのが通常ですが、地方税の『均等割』の部分は赤字でも納めなければなりません
そして、この均等割の額は、『資本金等の額』によって違うのです。
例として、2013年現在の、埼玉県の場合は次の通りです。
法人件民税の均等割

 

 

 

 

 

 

 

 

(注)『資本金等の額』とは法人税法上の概念で、単純な登記簿上の資本金の額とは異なりますが、設立当初は気にする必要はありません。
なお、このほかに、資本金の基準で3,000万円、あるいは1億円を境に税務上の取り扱いが大きく異なりますが、資本金が1,000万円を超える会社設立は非常に少なくなりましたので、ここでは省略します。

(4)許認可の必要条件から考える

許認可事業を行う場合には、財産的基礎があることが要件になっていることがあります。
必ずしも登記簿上の資本金額を下記の金額以上にしなければならないとは限りません。
しかし、会社設立後まもなく許認可事業を行う場合には、資本金で要件を充足することが一番簡単でしょう。
また、資本金以外の財産的要件が加わっていることもあります。
(例)
・一般建設業:500万円
・特定建設業:2000万円
・第一種旅行業:3,000万円
・第二種旅行業:700万円
・第三種旅行業:300万円
・地域限定旅行業:100万円
・一般労働者派遣事業:2,000万円×事業所数

(5)結局、いくらにするか

それでは結局いくらにするかということですが、事業内容や規模によって異なりますので正解はありません。少なくとも4~5ヶ月はまかなえる程度の事業資金を資本金として用意できればベストではないでしょうか。
そうすると、100万から300万円を目安として、1000万円未満でできるだけ多く、ということになるのではないかと思います。

作成:八潮三郷の司法書士法人ひびき

 

003 目的(事業目的)の決め方

会社は、定款で定められた事業目的の範囲内でのみ、事業を行うことができます(民法第34条、会社法第3条)。事業目的は登記簿の記載事項でもあります。

事業目的に記載されていない事業は営むことができない、というのが建前です。

しかし、ある会社が事業目的の範囲を逸脱する取引をした後で、その会社の代表取締役が「あれは目的の範囲外の行為だから無効ね」などと取引の無効を主張したならば、取引相手にとってはとんでもない話です。
そのような無効主張が認めれるとしたら、取引のたびに取引相手の登記簿をチェックしなければならなくなってしまいます。

そこで、判例上は、定款に記載された事業目的そのものだけではなく、その事業目的を達成するために必要または有効な行為まで広く含むと、かなりユルやかに解釈しています。

実務的には、事業目的の末尾に「上記各号に付帯する一切の事業」などと記載することで、幅広く取引活動をカバーしています。

とはいえ、事業目的が記載されている登記簿は、金融機関や取引先に提出して内容をチェックされることがあります。
定款・登記簿に記載されている事業目的とまったく関連性のない事業を反復・継続して営んでいると、その事業のために費やした経費が税務署に認めてもらえないなどのリスクもあります。
やはり事業が反復・継続的ならば、定款の事業目的に記載して登記するべきでしょう。

定款への記載の仕方は、主な例をあげると、
「日用品雑貨の製造販売」
「不動産の売買、賃貸およびその仲介」
「飲食店の経営」
「経営コンサルタント業」・・・・・このような感じで記載することが多いです。

電器屋を経営している会社が洋服屋もやりたいと思ったら、たとえば「洋服の販売」のように定款の事業目的を変更・追加するために所定の手続きを取り、さらに登記を申請して登記簿の記載も変更していきます。

 

(1)会社設立時には、将来予定している事業目的を盛り込む

「今すぐには始めないけれども、将来やるかもしれない」事業については、会社設立の時に定款に載せておけば、後で事業目的を追加する手続きをしないで済みます。

その場合に、許認可を必要とする事業であっても、あらかじめ定款に記載しておくことができます。ただし、どのように記載すれば良いか、事前に所轄官庁に問い合わせておくことが大切です。

 

(2)許認可が必要な事業とは

それでは、許認可を必要とする事業には、どのようなものがあるのでしょうか。

許認可を必要とする事業は1000種類以上あると言われており、すべてを網羅することはできませんが、たとえば次のような事業を行う場合には、所轄官庁に対して許認可を取得し、その監督を受けなければなりません。これは一定以上の技術水準や衛生管理水準を必要とする等の理由からです。
許認可を受けずに事業を行うと、営業停止などの処分や罰則が課されることになりますので十分にご注意ください。
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なお、業種によっては、一定以上の資本金を要求される点についても注意が必要です(特定建設業など)。

 

 

(3)事業目的を多くしすぎない

事業目的をあまりに多く記載するのも考えものです。「いったいこの会社は何をしている会社なのか?」ということが不明確になりすぎると、許認可審査や金融機関の融資審査を受ける際に大きなマイナスですし、また新しく取引をはじめる取引先からも不審に思われるかもしれません。
ほどほどにしておきましょう。

 

(4)その他、事業目的に記載できないもの

事業目的は登記簿に記載され公にされるものですから、一定の制限があり、次の要件を満たさないと登記できません。

登記できない事業目的

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

以前はこの他に「具体性」という要件もあり、目的を決めるのが煩雑でしたが、会社法施行後はこの要件がなくなりました(そのため、極端な話「商業」という事業目的でも受理されます)。
けれども、取引相手や金融機関、許認可を受ける際などにマイナスの印象を与えないよう、ある程度具体的な事業目的を定めることも大切です。

 

作成:埼玉県八潮市三郷市の司法書士法人ひびき

 

002 本店(会社の住所)の決め方

会社の住所のことを「本店」といいます。
この「本店」は、定款で定め、また登記簿に記載しなければなりません。

本店を置く場所については、日本国内であればどこでもOKです。
自宅を本店にすることも、すでに別の会社があるところに本店をおくことも可能です。

ここで気をつけなければならないことは、
(1)法人住民税の均等割と、
(2)近いうちに自宅・事務所・店舗を移転する予定があるかどうか

です。

 

(1)法人住民税の均等割の問題

会社等の法人を設立すると「法人住民税」がかかります。この法人住民税のうち「均等割」の部分については、たとえ赤字でも払わなければいけません。

ここでポイントは、『 複数の市区町村に事務所等(寮・保養所・集会所なども含みます)があると、市区町村の数だけ法人住民税の均等割が課税される』というところです。
本店はA市に置くけれども店舗はB区に出す、ということをやればA市とB区両方で法人住民税の均等割を納める必要がでてきます。

そのため、事務所・店舗とは別の市区町村に本店をおく場合は、それだけのメリットがあるかどうかをよく検討しましょう。

なお、「本店は登記簿の上だけで、人員も配置しないし事業活動もしません」という場合は、届出(都道府県と市区町村に)をすれば本店所在地では均等割は課税されません。しかし、自宅(本店)の奥様に経理や電話番をさせて給料を支払えば、当然、均等割がかかります。

 

 

(2)近いうちに自宅・事務所・店舗を移転する予定があるかどうか

本店を移転すると「本店移転」の登記が必要となります。これは、登録免許税だけで3万円(法務局の管轄が変わる場合は倍の6万円)かかり、その他に司法書士報酬もかかります。さらに銀行預金など様々なところで変更手続きが必要となりますので、近い将来に本店を移転する予定がある場合には、安易に本店を決めてしまうと後悔することになります。

ところで、新築の店舗を借りて本店にしたくても、会社名義で賃貸借契約をするには、会社を設立してからでないと取得できない登記事項証明書(登記簿謄本)や会社の印鑑証明書が必要ですから、新店舗を本店にできないのではないか?と疑問を持たれるかもしれません。
この場合には、「会社設立後は会社を借主とする特約」がついた(仮)契約を、個人名義で行っておいて、会社設立後に本契約をすれば大丈夫です。

 

 

(3)定款への本店所在地の記載方法

定款では「最小行政区画」まで決めておき、登記簿のほうだけ「所在地」まで記載することも可能です。こうしておけば、同一市内で本店を移転した場合でも、定款を変更しないで登記だけを変更すれば済み、便利です。
定款への本店所在地の記載方法

 

 

 

 

 

 

 

 

※定款に本店を簡略化せずに記載すると、同一市町村内で本店を移転した場合にも定款変更が必要になり、面倒です。

作成:埼玉県八潮市三郷市の司法書士法人ひびき

 

 

001 商号(会社名)の決め方

「商号」とは、設立する会社の名前のことです。
これには次のようなルールがあります。

 

(1)商号には、「会社の種類」を入れなければいけない

会社の種類とは、「株式会社」「合同会社」「合資会社」「合名会社」の4種類のことをさします(今は「有限会社」を新たに設立することはできません)。
この、種類をあらわす文字を入れる場所は、会社の名前の前でも後でも、どちらでもかまいません。
      例 田中園芸株式会社 株式会社田中園芸 どちらでもOK。

ただし、これら「会社の種類」をあらわす用語として、外国語表記は登記できません。
たとえば、「Company Limited」「Incorporatad」「Corporation」、またはこれらの短縮形は登記できません。
このような表記を特に公式に用いたい場合には、定款で「当会社は、株式会社田中園芸と称し、英文では、TANAKA Gardening Shop Co.,Ltdと称する」のように併記し、登記上は「株式会社田中園芸」だけとする方法があります。

なお、名前の中に種類を入れなければならないのは、会社以外の「一般社団法人」や「有限責任事業組合」などでも同じです。

 

(2)登記簿では、商号に使える文字は限定されている

会社がどのような商号を用いるかは、上記(1)の「種類」さえ入れれば、後は自由となっています。
しかし、登記をする際には、使える文字が次のとおりに限定されています。

商号で使える文字一覧

よって、日本語の句読点は登記では使えませんので、「丸三工業。」は不可です。
「○三工業」もいけませんね。
また、例えばハングル文字などを登記簿にのせることもできません。

 

(3)近所の会社と勘違いされそうな商号はつけない

以前は、「同一の市区町村内で、同一事業のために他人が登記したものと判別できない商号は登記できない」という「類似商号規制」というものがあり、会社名を決めるのも大変でしたが、今ではこの類似商号規制は廃止されました。

したがって、今では、本店(会社の住所)が同一でない限り、同一市区町村内に同じ商号の会社が並存することができるようになりました。これは会社設立の際に商号を決めるにはありがたいことですが、裏を返せば、隣近所にまったく同じ名前の会社ができる可能性もあるということになります。

これでは、先行して営業している会社はたまったものではありません。

そこで、会社法第8条では、「不正の目的をもって、他の会社であると誤認されるおそれのある名称又は商号を使用してはならない」と定め、そのような不正使用を差し止めることができる規定をおくとともに、罰則規定を設けています(第978条第3項)。

つまり、会社法は、「登記するのは自由だけれど、訴えられるかもよ」と言っているわけです。

ですので、少なくとも近所に似たような名前の会社がないかどうか、事前に確認する作業は、やはり今後も必要と考えておくべきでしょう。

(4)不正競争防止法や商標登録に注意

また、「不正競争防止法」という法律によって、
1.他人の商品等表示(商号やブランド、商品名などの商標)として幅広く認識されているものを利用する行為とか、
2.他人の著名性にタダ乗りする行為
このような行為は禁止されています。
つまり、「エル○ス」とか「ミッ○ーマウス」など世に知られた名称を、商号に利用したり商品名やサービス名に利用したりすることは禁止されており、これに違反すると損害賠償や使用差し止めの対象になりかねません。十分注意してください。

 

作成:埼玉県八潮市三郷市の司法書士法人ひびき