008 相続時精算課税制度(1) 制度趣旨と内容

相続時精算課税制度の趣旨

贈与税の税率と計算(暦年課税の場合)で見ましたように、贈与税の税率は高いため、そう簡単に大きな資産を生前贈与することはできません。

しかし、高齢化が進んでいる我が国では、相続による現役世代への資産移転がなかなか進みません。
どちらかと言えば、ご年配の方より若い方のほうがお金を使いますから、相続とは別の方法でスムーズに現役世代へ資産を移転して、どんどんお金を使ってもらえば、経済を活性化することができるかもしれません。

そこで、贈与税の特例を設け、ご年配の方から現役世代への生前贈与をやりやすくした制度が、『相続時精算課税制度』です(相続税法21条の9~)。

 

相続時精算課税制度の内容

具体的には、相続時精算課税制度では一定の要件を満たす贈与については2,500万円まで贈与税がかからず、2,500万円を超えても税率は20%で一律になっています。
このように”贈与税”については大幅に軽減されるのですが、財務省がそんなに太っ腹なわけはなく、贈与者に相続が発生した時点で納める”相続税”のほうで精算することになります。

具体的には、
1)相続が発生(贈与者の死亡)した時点での相続財産の価額
と、
2)この『相続時精算課税制度』を利用して贈与された財産の価額
の、
1)と2)の合計に対して相続税額を算出し、すでに支払っている贈与税を差し引いて税金を納付します。

言葉は悪いですが、税金をツケにするわけです。

ですから、この『相続時精算課税制度』を利用して財産をもらった人は、相続のときに何も財産を引き継がない場合でも、生前贈与でもらった財産の価額を”相続税”の課税価額に算入して、相続税を計算することになります。
なお、相続時精算課税制度の非課税枠(贈与者の生涯にわたって2,500万円)は、枠の上限に達するまで何度でも何年でも使うことができますが、贈与者が同じ場合には、暦年課税制度の非課税枠(毎年110万円)との併用はできず、元に戻すこともできません(贈与者が違うならば併用できます)。
相続時精算課税と暦年課税は併用不可相続時精算課税と暦年課税は親が違えば併用可能

 

 

 

 

非課税枠の扱い

また、『暦年課税制度』と『相続時精算課税制度』では、非課税枠の扱いに違いがあります。
複数の人から贈与によってもらった財産がある場合、
1)暦年課税制度では、『もらった人ごと』に毎年110万円の非課税枠
ですが、
2)相続時精算課税制度では、『あげた人ごと』に生涯で2,500万円の非課税枠
となります。
複数の『あげた人』にそれぞれ相続が発生すれば、相続税はそれぞれ別に計算しますから、合算はしません。

暦年課税の非課税枠相続時精算課税の非課税枠

 

 

 

 

相続時精算課税制度での贈与税の計算

相続時精算課税制度を選択した場合の贈与税の計算を、具体例で説明すると次のようになります。

例:父と母からそれぞれ生前贈与を受け、父からの贈与についてだけ、相続時精算課税を選択した場合

【1年目】
相続時精算課税の場合の贈与税額計算事例1

 

 

 

 

 

(1)父からの贈与
【課税される金額の計算】1,000万円-1,000万円(特別控除額)=0
【翌年以降に繰り越される特別控除額の計算】2,500万円-1,000万円=1,500万円
(2)母からの贈与
【課税される金額の計算】400万円-110万円(基礎控除額)=290万円
(母からの贈与については、相続時精算課税を選択していませんので、2,500万円の特別控除額ではなく、110万円の基礎控除額をもらった額から控除し、通常通り計算します)
【贈与税額の計算】290万円×15%-10万円=33.5万円


 

【2年目】
相続時精算課税の贈与税の計算事例2

 

 

 

 

 

【課税される金額の計算】1,000万円-1,000万円(特別控除額)=0
【翌年以降に繰り越される特別控除額の計算】1,500万円-1,000万円=500万円


【3年目】
相続時精算課税の贈与税の計算事例2

 

 

 

 

 

【課税される金額の計算】1,000万円-500万円(特別控除額)=500万円
【贈与税額の計算】500万円×20%=100万円(贈与税額)

相続時精算課税を選択した場合、その後の撤回はできません。
また、相続時精算課税の特別控除を受けるためには、贈与税の期限内申告が必要です。

 

2013年9月20日 | カテゴリー :