相続時精算課税制度の趣旨
贈与税の税率と計算(暦年課税の場合)で見ましたように、贈与税の税率は高いため、そう簡単に大きな資産を生前贈与することはできません。
しかし、高齢化が進んでいる我が国では、相続による現役世代への資産移転がなかなか進みません。
どちらかと言えば、ご年配の方より若い方のほうがお金を使いますから、相続とは別の方法でスムーズに現役世代へ資産を移転して、どんどんお金を使ってもらえば、経済を活性化することができるかもしれません。
そこで、贈与税の特例を設け、ご年配の方から現役世代への生前贈与をやりやすくした制度が、『相続時精算課税制度』です(相続税法21条の9~)。
相続時精算課税制度の内容
具体的には、相続時精算課税制度では一定の要件を満たす贈与については2,500万円まで贈与税がかからず、2,500万円を超えても税率は20%で一律になっています。
このように”贈与税”については大幅に軽減されるのですが、財務省がそんなに太っ腹なわけはなく、贈与者に相続が発生した時点で納める”相続税”のほうで精算することになります。
具体的には、
1)相続が発生(贈与者の死亡)した時点での相続財産の価額
と、
2)この『相続時精算課税制度』を利用して贈与された財産の価額
の、
1)と2)の合計に対して相続税額を算出し、すでに支払っている贈与税を差し引いて税金を納付します。
言葉は悪いですが、税金をツケにするわけです。
ですから、この『相続時精算課税制度』を利用して財産をもらった人は、相続のときに何も財産を引き継がない場合でも、生前贈与でもらった財産の価額を”相続税”の課税価額に算入して、相続税を計算することになります。
なお、相続時精算課税制度の非課税枠(贈与者の生涯にわたって2,500万円)は、枠の上限に達するまで何度でも何年でも使うことができますが、贈与者が同じ場合には、暦年課税制度の非課税枠(毎年110万円)との併用はできず、元に戻すこともできません(贈与者が違うならば併用できます)。
非課税枠の扱い
また、『暦年課税制度』と『相続時精算課税制度』では、非課税枠の扱いに違いがあります。
複数の人から贈与によってもらった財産がある場合、
1)暦年課税制度では、『もらった人ごと』に毎年110万円の非課税枠
ですが、
2)相続時精算課税制度では、『あげた人ごと』に生涯で2,500万円の非課税枠
となります。
複数の『あげた人』にそれぞれ相続が発生すれば、相続税はそれぞれ別に計算しますから、合算はしません。
相続時精算課税制度での贈与税の計算
相続時精算課税制度を選択した場合の贈与税の計算を、具体例で説明すると次のようになります。
例:父と母からそれぞれ生前贈与を受け、父からの贈与についてだけ、相続時精算課税を選択した場合
【1年目】
(1)父からの贈与
【課税される金額の計算】1,000万円-1,000万円(特別控除額)=0
【翌年以降に繰り越される特別控除額の計算】2,500万円-1,000万円=1,500万円
(2)母からの贈与
【課税される金額の計算】400万円-110万円(基礎控除額)=290万円
(母からの贈与については、相続時精算課税を選択していませんので、2,500万円の特別控除額ではなく、110万円の基礎控除額をもらった額から控除し、通常通り計算します)
【贈与税額の計算】290万円×15%-10万円=33.5万円
【2年目】
【課税される金額の計算】1,000万円-1,000万円(特別控除額)=0
【翌年以降に繰り越される特別控除額の計算】1,500万円-1,000万円=500万円
【3年目】
【課税される金額の計算】1,000万円-500万円(特別控除額)=500万円
【贈与税額の計算】500万円×20%=100万円(贈与税額)
相続時精算課税を選択した場合、その後の撤回はできません。
また、相続時精算課税の特別控除を受けるためには、贈与税の期限内申告が必要です。