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010 相続時精算課税制度は相続対策になるか(1)【遺産紛争対策編】

010 相続時精算課税制度は相続対策になるか(1)【遺産紛争対策編】

このところ、オフィシャルサイトの更新がなかなか進みません。
『相続あんしん相談室』のほうにかかりきりなもので、決してサボっているわけではないのです…

さて、今回は『相続時精算課税制度は相続対策になるか』を考えてみたいと思います。

相続時精算課税制度を使って贈与する最大の目的は、やはり相続対策でしょう。
「いやいや相続なんて関係ないよ~ただただ早く息子に財産をあげたくてしょうがないんだよ~」などという方は、かなり少数派だと思われます(多分)。

相続対策といえば、必ず『遺産紛争対策』『納税資金対策』『相続税対策』の三点セットで考えるのが原則です。
そこで、これら3つの観点からこの制度がどのていど使えるものなのか検証してみます。
あくまで私見ですので、この記事を参考にして制度を利用した、あるいは利用しなかった場合でも、責任は負いかねます…

 

遺産紛争対策として相続時精算課税制度は役に立つか? (微妙)

法律や税務の専門家でもない限り、相続時精算課税制度を利用して財産を生前に贈与してしまえば、相続争いにはならないと考えてしまいがちです。しかし必ずしもそうとは言い切れないのです。

ここに彦左衛門さんという方がいらっしゃるとします。
彦左衛門さんには、将来の相続人となる子供が、太郎・二郎・花子の3人いるとして、
「ワシは、どうしても花子に宇都宮の土地をもたせたいのじゃ!」
と考えるならば、相続時精算課税制度を使って、花子に宇都宮の土地を贈与することは十分ありえます。

ある特定の財産を、相続にかからせることなく確実に承継させることができるという点では、生前贈与は有効といえるでしょう。特に自社株の生前贈与は、事業承継対策のひとつとして十分検討する価値があります。

ただし、同時に2つの点に配慮する必要があります。
1つは『特別受益』の問題、もう1つは『遺留分』の問題です。

特別受益にあたるか

1つめの問題である『特別受益』ですが、これは相続が発生したときに、被相続人から遺贈を受けたり、遺産の前渡しと見られるような生前贈与などを受けたりした相続人(”特別受益者”といいます)がいる場合に、そうでない相続人と公平になるように、法定相続分や指定相続分を調整する制度です。

太郎や二郎にしてみれば、彦左衛門さんが亡くなって遺産を分割することになれば、
「花子は宇都宮の土地を生前にもらったのだから、遺産の配分は少なくていいだろう」
と考えるのは自然な成り行きです。

花子がもらった宇都宮の土地は意外にも(?)資産価値が高く相続時精算課税制度を利用して申告までしていますから、遺産の前渡し的要素が強いといえます。花子がもらった宇都宮の土地は、実務的にはまず特別受益財産と考えられるでしょう。

そこで、特別受益者である花子が生前贈与で得た宇都宮の土地の価額(相続開始時の時価)を、特別受益として相続財産に組み入れ(これを”特別受益額の持ち戻し”といいます)、これをベースにして各相続人の相続分を算出します。

仮に彦左衛門さんの遺産が1億あって、花子に贈与した宇都宮の土地の相続開始時の時価が5,000万だったら、この5,000万を彦左衛門さんの遺産に持ち戻し、彦左衛門さんの遺産を1億5,000万として太郎・二郎・花子の相続分を出すわけです。
それぞれの法定相続分は均等に3分の1ですから、それぞれ5,000万ずつになりますね。

そして、特別受益者である花子はすでに5,000万相当の不動産をもらっいるので、遺産分割にあたって花子に配分される遺産はありません。
でも、宇都宮の土地を花子に持たせたいという彦左衛門さんの目的は達成されました。

仮に、計算の結果花子がもらった宇都宮の土地の評価が相続分より多かったとしても、太郎や二郎の遺留分を侵害しない限り贈与財産を返す必要はありませんから、宇都宮の土地は無事花子のものとなり、やはり彦左衛門さんの目的は達成されることになります。

「いや、花子には宇都宮の土地を贈与したが、それは相続とは別枠で、相続のときには残りの遺産を均等に配分してもらいたい」
彦左衛門さんがこのように考えるならば、遺言などで『持ち戻し免除の意思表示』というものをしておく必要があります。明確に意思表示をしなくても、裁判上では持ち戻し免除の意思表示を推認されることも少なくないですが、はっきりと遺言などで明示しておくほうがよいでしょう。

なお、どのような財産が持ち戻しの対象となるかについては裁判上で争いになることが多いですが、相続時精算課税による贈与の場合、金額が大きく受贈者もはっきりと贈与と認識して申告していますから、ほぼ確実に持ち戻しの対象となるでしょう。

また、持ち戻しの対象となる贈与は、期間の制限がなく、何十年前の贈与でも対象になります。
この点は、相続税の課税対象となる贈与財産が、相続発生前3年以内の贈与に限られることと大きく違います。

ともかく、これで宇都宮の土地は花子のものになりました。めでたしめでたし…
と思いたいところですが、そう言えるのは彦左衛門さんが宇都宮の土地以外にも資産があるからです。

宇都宮の土地を花子に贈与したことによって、太郎と二郎の『遺留分』を侵害していれば、これをめぐってきょうだいの間で紛争が生じる可能性があります。

 

遺留分侵害との関係

彦左衛門さんの財産が宇都宮の土地しかなければ、これを花子に贈与したことによって、彦左衛門さんに万一の事があっても太郎と二郎はまったく相続するものがなくなってしまいます。
このような不公平を是正するのが『遺留分制度』です。

民法1030条では、「遺留分の算定計算をするときは、一定の贈与財産価額を加えなさい」と定めています。
基本的には、ここでいう一定の贈与とは次の二つです。
1)相続開始前1年間の贈与
2)1年以上前の贈与でも、当事者双方が相続人の遺留分を侵害することを知ってなした贈与

これだけを読むと、彦左衛門さんと花子の二人ともが太郎・二郎の遺留分を侵害することを認識していなければ問題なさそうに思えてしまいます。
しかし、相続人に対する生前贈与(特別受益)は、民法1030条の定める要件を満たさないものであっても、すべて遺留分の算定計算において加算することになっています。遺留分の規定が特別受益の規定を引用しているため、相続人に対する贈与の時期や当事者の認識を問わずにすべて加算するのです(民法1044条による903条準用、昭和51年3月18日最高裁判決)。
よって、彦左衛門さんと花子に悪気がなくても、贈与財産である宇都宮の土地の価額は遺留分の算定計算に加えられます。

そして太郎・二郎は、この贈与が民法1030条の要件を満たさなくても、特別受益である贈与自体に遺留分減殺請求をすることができます(平成10年3月24日最高裁判決。ただし特段の事情ある場合を除く)。

花子が太郎・二郎に遺留分相当額を現金で支払えればいいですが、支払えなければ土地そのものを手放さざるを得なくなります。

 

遺産紛争対策としては使えなくもない

結局、相続時精算課税制度そのものはあくまで税制上のものであり、法律上は一般の生前贈与契約となんら変わるところはありません。したがって、通常の生前贈与同様、やはり受贈者以外の推定相続人が有する遺留分に対する配慮を欠かすことはできません。むしろ相続時精算課税を使うと特別受益としての性格が濃厚になるので、持ち戻しにどう対応するかなど、きちんと考慮する必要があります。

単純に遺産紛争対策として考えるならば、生前贈与は財産の内容によっては非常にコストがかかります。
たとえば不動産を贈与すれば登録免許税や不動産取得税が結構かかりますので、その点は遺言による対策と比べて見劣りがします。

また、まとまった財産を贈与することによって債権者を害することがあれば、詐害行為として取り消される可能性もあり、注意しなければなりません。

とはいえ、相続時精算課税制度を使えば相続を待たずしてまとまった財産を生前贈与きますので、もらった側が贈与財産を活用する予定があり、かつ納税資金対策や相続税対策も天秤にかけてメリットがあるならば、本制度を使ってみてもよいかも知れません。

特定の推定相続人に財産を集中させるために本制度を利用するだけではなく、遺留分放棄の代償として相続時精算課税制度による贈与を活用することも考えられます。

 

 

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